「科学と医療を視覚化する力:挑戦するアカデミック・メディカル・イラストレーション」
広島大学理学部で生物科学を専攻し、科学的な正確性と深い洞察を基盤にキャリアをスタートした岡村珠代。オランダのザウト応用科学大学で世界的に評価されるサイエンスイラストレーション修士課程を修了した彼女は、解剖学的知識を基にした精緻なイラストレーション技術を習得。研究成果を視覚的に伝えるためのデザインとアートの融合を目指し、すでに高度な専門性を求められるプロジェクトに携わっています。
「科学と医療をもっとわかりやすく、そして美しく」――岡村の情熱は、医師や研究者の皆様が抱える課題に応える力となります。

広島大学で生物学を学び、研究への情熱を育む
― 岡村さんは、広島大学で生物学を学んだ後、オランダのザウト応用科学大学でメディカルイラストレーションを学ばれたんですね?
はい。広島大学の理学部生物科学科を卒業し、その後オランダにあるZuyd University of Applied SciencesのMaster Scientific Illustrationコースを修了しました。
― 広島大学在籍中は、主にどんなことを学ばれたのですか?
分子生物学や発生生物学から植物学に至るまで多岐にわたる分野を学びました。
4年時には両生類研究センターに所属し、「腫瘍化抑制因子」として知られているp53遺伝子を改変させたイベリアトゲイモリを用いて、その腫瘍化抑制機構の解明をテーマに卒業研究を行いました。
サイエンスイラストレーションとの出会いが転機に
― 渡欧してメディカルイラストレーションを学ぼうと決心したきっかけは何だったんでしょう?
絵を描くことは昔から好きだったんです。ただ、様々な論文を読み、自分の研究分野に関する学びを深めていく過程で、新しい知見に触れ・理解できた時の喜びを日々感じていましたが、それが絵を描くことと結びつくことはありませんでした。
将来を見据え、自分の世界を広げてくれた生医学研究を支えていけるような仕事に携わることができないかと考えていた時、偶然、広島大学の先輩であるサイエンスイラストレーター大内田美沙紀さんの記事に出会ったのです。
世の中に、サイエンスイラストレーション(バイオメディカルイラストレーション)という分野があることはまさに衝撃でした。そして、これは運命だと思い、すぐにこの分野を学べる場所が無いか探し始めたのです。
オランダ留学で培った解剖学の基礎と実践
― 単身オランダに留学したわけですね。オランダのザウト応用科学大学ではどのようなことを学ばれましたか?
メディカルイラストレーターとして必要な能力を養うため、解剖学の基礎から学びました。
実際にご検体やラットを自ら解剖し、その理解を深めながら制作に取り組みました。作品を作る際には常に骨格標本などを参考にし、正確性を保つことを心掛けていました。
2年次には修士論文プロジェクトとして、ハダカデバネズミの老化耐性機構を研究している研究室に協力をお願いし、研究内容をもとにイラストを作成しました。その際には研究室を訪問し、密接に連携しながらプロジェクトを進める貴重な経験を得ることができました。

多様な案件に対応し、成長を続ける日々
― 現在、MEDICAL FIG.にてプロとして活躍されています。具体的にどんな仕事を担当されていますか?
主に医学論文のFigureを制作しています。これまでに、歯周病の手術に関するイラストや、スマートウォッチを活用したライフスタイルに関するイラストなど、多様なテーマの案件を担当しました。
制作の際は、先生方のご意向に沿ったイラストを提供するため、細かな検討や修正を重ねながら進めています。また、複数の描画ソフトを駆使し、正確性と視覚的な魅力を両立させた作品を心掛けています。

経験を活かし、さらなるスキル向上を目指す

岡村がはじめて担当した『コメディカルスタッフのためのOW・CW・DFO膝骨切り術院内導入マニュアル』。先生のご指導の下、病院や術者独自の手術手順や設備に対応したカスタマイズされたマニュアルとして、膝骨切り術の手技や立ち位置の指導を明確化し、手術室での効率と衛生面を向上させる目的で制作した。
詳しい実績紹介はこちらから。
― MEDICAL FIG.では、アカデミック・メディカル・イラストレーションを標榜しています。自身が学ばれてきたサイエンスイラストレーションの技術が活かされている場所はどこでしょうか?
解剖学や生医学論文に触れてきた経験が、案件内容を学ぶ際に多面的なアプローチを可能にしており、効率的な理解につながっています。特に、先生方が表現したい内容を正確に理解することはイラスト制作において欠かせない要素であり、この点でこれまでの学びが大いに役立っていると感じています。
一方で、グラフィカルアブストラクトのように、複数の要素を統合したデザインやレイアウトの作成に関しては、まだ経験が浅い部分もあります。このため、実際の案件を通じて経験を積みながら、徐々にスキルを向上させている最中です。
橋渡しの役割を担うイラストレーターへ
― 今後、どのようなメディカルイラストレーターを目指しますか?
例えば論文のFigure作成では、先生方の研究成果やニーズを正確に把握し、それを的確に表現する能力が求められます。入社後に、お打ち合わせの中でイラストレーターと先生方のイメージをすり合わせる「ライブペインティング」という技術を知り、現在そのスキルを磨いています。
私は、お客様の研究の魅力や素晴らしさをより多くの人に伝えるイラストを描くことを目指しています。また、イラスト制作を通じて研究業界の発展に貢献したいという思いを持っています。今後は、生物学など医学以外の分野にも積極的に携わり、研究者同士や他分野の研究者、さらには一般の方々をつなぐ「橋渡し」の役割を担える存在になりたいです。
最後に:お客様へのメッセージ

「医学」という分野に携わらせていただいたことで、改めて己の無知さを日々実感しつつも、常に新たな学びがあり、またゼロからイラストを作り上げていく、そのようなワクワクする環境に身を置けていることに感謝の思いでいっぱいです。
まだまだ駆け出しですが、皆様の思いを形にできるように精進いたしますので、これからどうぞよろしくお願いいたします!
