本シリーズでは、Plain Language Summary(PLS)の基本概念から始まり、Patient-Centricityとの関係、Graphical PLSの広がり、そしてそれがどのような人々に利用されているのかを見てきました。
海外では、患者向け要約をわかりやすく伝えるための手段として、Graphical PLSの活用が広がっています。
しかし、第4回で見たように、研究成果を必要としているのは患者本人だけではありません。
家族や介護者、患者団体、医療従事者、政策担当者、そして一般市民など、多様な立場の人々が研究成果を必要としています。
そのとき、同じ研究成果を同じ表現で伝えることは、本当に適切なのでしょうか。
株式会社メディカルエデュケーションは、研究成果の視覚化を支援する業務を通じて、研究者、審査委員、学習者、そして社会といった異なる場面で、研究内容の伝え方が変化することを経験してきました。
今回は、その経験を踏まえながら、「研究成果を誰に伝えるのかによって、伝え方は変わるのではないか」という視点について整理してみたいと思います。
Graphical PLSが広がった背景
Graphical PLSが注目されるようになった背景には、Patient-Centricityの考え方があります。
研究成果を公開するだけではなく、患者や家族、社会に理解してもらうことが重視されるようになった結果、文章だけではなく図解を活用した情報提供が広がりました。
特に患者向け情報では、
- 誰を対象とした研究なのか
- どのような治療を行ったのか
- どのような結果が得られたのか
といった内容を、短時間で理解できることが求められています。
Graphical PLSは、そのための有効な手段として発展してきました。
同じ研究成果でも、伝える相手は異なる
一方で、第4回で紹介したように、研究成果を必要としているのは患者本人だけではありません。
家族や介護者、患者団体、医療従事者、政策担当者、そして一般市民など、多様な立場の人々が研究成果に関心を持っています。
そして、それぞれが知りたい内容も異なります。
患者は治療との関係を知りたいかもしれません。
家族は生活への影響を知りたいかもしれません。
患者団体は疾患啓発や政策提言に活用したいかもしれません。
政策担当者は社会的な意義や医療制度への影響に関心を持つかもしれません。
研究成果そのものは同じでも、受け手によって求められる情報や理解の仕方は変わります。
研究コミュニケーションには複数の場面がある
研究成果は、
- 研究者同士で共有される場面
- 研究費審査の場面
- 教育・学習の場面
- 社会へ共有する場面
など、さまざまな文脈で利用されます。
株式会社メディカルエデュケーションは、医学研究の視覚化を支援する業務を通じて、研究成果がこうした複数の場面で利用されることを見てきました。
例えば、研究者同士のコミュニケーションでは、論文FigureやGraphical Abstractが用いられます。
科研費や研究費申請の場面では、審査委員に研究構想を伝えるための図解が必要になります。
教育の場面では、学生や医療従事者が学習しやすい形へ再構成された教材が求められます。
さらに社会へ研究成果を共有する場面では、患者や市民に理解できる表現が必要になります。
それぞれの場面で扱う研究成果は同じであっても、伝える目的や対象者によって、必要とされる表現は大きく異なります。
Visual PLSという考え方
こうした背景から、私たちはGraphical PLSを単なる「図解された患者向け要約」としてではなく、研究成果を社会と共有するためのコミュニケーション設計として捉えています。
株式会社メディカルエデュケーションでは、この考え方をVisual Plain Language Summary(VPLS)と呼んでいます。
VPLSは、Graphical PLSの別名ではありません。
また、特定のフォーマットやデザイン手法を指すものでもありません。
研究成果を誰に伝えるのか。
その人は何を理解する必要があるのか。
そのためにどのような表現が適切なのか。
そうした視点から研究成果を再構成する考え方です。
患者向けに作られたGraphical PLSが、必ずしも家族や患者団体に最適とは限りません。
逆に、社会的意義を強調した表現が、研究者同士の議論に適しているとも限りません。
私たちは、Visual PLSの本質は図解そのものではなく、「誰に伝えるか」を起点とした情報設計にあるのではないかと考えています。
日本でVisual PLSは広がるのか
現時点では、日本国内でVisual PLSという言葉が広く使われているわけではありません。
また、Graphical PLSそのものも、欧米ほど普及しているとは言い難い状況です。
しかし、Patient-CentricityやPatient Engagementへの関心は確実に高まっています。
研究成果を専門家だけで共有するのではなく、社会と共有することの重要性も、以前より広く認識されるようになりました。
そのような流れの中で、研究成果をどのように伝えるべきかという議論は、今後ますます重要になると考えられます。
Visual PLSは、その答えの一つではなく、研究コミュニケーションを考えるための一つの視点なのかもしれません。
おわりに
本シリーズでは、PLSから始まり、Patient-Centricity、Graphical PLS、そしてその利用者について整理してきました。
海外では、研究成果を患者や社会へ届けるための取り組みが着実に進んでいます。
一方で、研究成果を伝える相手は一人ではありません。
患者、家族、患者団体、医療従事者、政策担当者、そして一般市民。
それぞれが異なる目的で研究成果を必要としています。
株式会社メディカルエデュケーションは、こうした研究コミュニケーションの多様性に注目しながら、Visual PLSに関する海外動向の調査と実践的な検討を続けています。
研究成果を「発表する」だけでなく、「共有する」ために何が必要なのか。
本シリーズで見てきたPLSやGraphical PLSも、そのための試みの一つと言えるでしょう。
その問いに対する答えを、今後も探求していきたいと考えています。



