株式会社メディカルエデュケーション代表の落合です。
ここでは、アカデミック・メディカル・イラストレーションの日常業務について、ご紹介します。
MEDICAL FIG.では、毎週、制作チーム・コーディネーター・代表を交えた振り返り会議を行っています。
先日の会議では、循環器領域の論文図案件について、非常に象徴的なやり取りがありました。
制作を担当した永田が、途中でこう話したのです。
「心臓は背景なんですよ、これ。」
一般的には、おそらく逆に見えます。
立体的な心臓が中央にあり、細かい解剖構造が描かれている。
そのため、ぱっと見では「心臓が主役」に見える。
しかし、この論文で本当に重要だったのは、リード線の走行や配置、そして電気信号がどのように伝達されているかという構造でした。
つまり、論文としての“前景”はリード線側にあり、心臓はその文脈を成立させるための“背景”だったのです。
今回の案件では、先生側から「リアル感を出してほしい」という要望がありました。
ただ、この「リアル」という言葉は、制作側にとって非常に曖昧です。
最初に聞くと、どうしても「もっと描き込みを増やす」「もっとフォトリアルにする」という方向へ考えが引っ張られます。
しかし、振り返り会議の中で永田は、こう整理していました。
「リアルにしてくれって言われると、テーマが薄れちゃうんですよ。埋没しちゃう。」
ここで言っている“テーマ”とは、リード線や信号走行のことです。
心臓側の情報量が増えすぎると、本来読者に見せたい構造よりも、背景側の存在感が勝ってしまう。
つまり、“リアル”を足していくことが、そのまま論文図としての理解度向上には繋がらないのです。
今回の制作では、途中で「心臓を一度グレーアウトする」という調整も行われていました。
背景としての存在感を落としつつ、解剖学的な説得力は維持する。
しかし、単純に薄くすればいいわけではありません。
薄くしすぎれば、今度は位置関係やデバイス配置の説得力が失われる。
そのため、
を細かくチューニングしていました。
しかも、こうした調整は、完成後にはほとんど見えません。
永田も会議中に、
「ぱっと見、そういう調整が入ってるっていうふうには見えないかもしれない」
と話していました。
実際、完成した図だけを見ると、「自然にまとまっている図」にしか見えないかもしれません。
しかし、その“自然さ”を成立させるために、背景情報の存在感をかなり繊細に制御しています。
論文図制作というと、「綺麗な図を描く仕事」と見られることがあります。
しかし実際には、
といった、“認知構造”の調整が大きな割合を占めています。
今回の案件でも、心臓は単なる装飾ではありませんでした。
背景として成立しなければならない。
しかし、出過ぎてもいけない。
その微妙なバランスを調整すること自体が、論文図制作の重要な工程になっています。