近年、研究者自身が生成AIを用いて科研費申請書のポンチ絵や論文Figureのたたき台を作成し、それを基に図版制作をご依頼いただくケースが増えています。
2026年以降、MEDICAL FIG.およびGrantVでも、生成AIで作成した画像を原図としてご提供いただく案件が増加してきました。
生成AIは、研究者が頭の中に持っている研究構想や、ポンチ絵に含めたい情報を、短時間で可視化できる有効な手段です。
特に科研費のポンチ絵では、研究背景、課題、仮説、研究手法、期待される成果、社会実装や波及効果など、まだ実現していない未来の研究構想を一枚の中に描く必要があります。
生成AIに相談すると、関連する情報や表現が次々に提案されるため、研究者自身も「確かに、この情報も必要だ」と感じやすくなります。
その結果、研究構想は十分に盛り込まれている一方で、画面上の情報が過密になりやすいという問題が生じます。
この傾向は科研費のポンチ絵に限らず、論文FigureやGraphical Abstractでも基本的には共通しています。一方で、科研費のポンチ絵は、論文内の特定の結果やメカニズムに限定されず、研究全体の背景から将来展望までを扱うため、情報の範囲がより広くなりやすいと考えられます。
そこで株式会社メディカルエデュケーションでは、2026年以降に研究者から生成AI画像を原図としてご提供いただいた制作案件を対象に、制作開始時のAI生成Figureと、申請・投稿・納品に至った最終Figureとの比較解析を行いました。
対象は、MEDICAL FIG.およびGrantVで支援した6案件です。
いずれも、研究者が生成AIを用いて作成したFigureを制作開始時の原図として受領し、同一の研究内容をもとに、科研費申請書や論文投稿などの目的に応じた最終Figureとして再構成した案件です。
つまり、今回比較したのは、異なる研究や別々のFigureではありません。
同じ研究内容を扱った同じFigureが、専門的な制作工程を経ることで、視覚的にどのように変化したのかを比較しています。
調査対象には科研費のポンチ絵と論文Figureの双方が含まれますが、AI生成画像を原図として受け取り、研究の主張や構想を維持しながら、視覚的な情報密度を整理するという制作工程は共通しています。
AIを取り巻く環境は急速に変化しているため、本調査では比較対象を2026年以降の案件に限定しました。
解析には、次の3つの指標を用いました。
線や図形の境界が、画面内にどの程度存在するかを示す指標です。
図形、文字、線、背景色などが、画面全体のどの程度を占めているかを示します。
色や明暗のばらつきが、画面内にどの程度含まれているかを示します。
これらは、研究内容そのものの情報量を評価するものではありません。
画像の中にどの程度の視覚要素が存在し、画面がどれほど密集した状態になっているかを測定するための指標です。
科研費のポンチ絵においては、研究背景や仮説、研究手法、成果予測など、性質の異なる情報が一枚の中に配置されます。
そのため、研究内容として必要な情報が含まれていても、画面上での情報の置き方によっては、研究の核が見えにくくなることがあります。
解析の結果、AI生成Figureでは、画面の平均70.7%が図形、文字、線、背景色などの視覚要素によって占められていました。
これに対し、申請・投稿・納品に至った最終Figureでは、平均31.1%でした。
今回対象としたAI生成Figureは、最終Figureと比較して、画面上の視覚要素の占有率が平均約2.27倍高かったことになります。
輪郭密度についても、AI生成Figureは最終Figureの平均約1.85倍でした。
同じ研究内容を扱っていても、AI生成Figureでは、画面のより広い範囲が図形、文字、背景色などで占められ、線や境界も多く含まれていたことになります。
こうした状態では、研究に必要な情報が十分に盛り込まれていても、視覚要素同士が競合します。
科研費のポンチ絵であれば、
といった研究構想の中心が、短時間では読み取りにくくなる可能性があります。
この結果は、AI生成Figureの優劣を評価するものではありません。また、生成AI一般の特性を示すものでもありません。
今回調べたのは、同じ研究内容を扱ったFigureが、科研費申請書や論文投稿などに使用できる状態まで制作される過程で、視覚的にどのように整理されていくかです。
生成AIは、研究者が必要だと考える要素を広く盛り込み、構想を可視化することに適しています。そのため、制作開始時のインプットとしては非常に有効です。
特に科研費のポンチ絵では、まだ実施されていない研究を描くため、検討すべき内容が多岐にわたります。
研究の背景、現在の課題、着想、仮説、研究計画、期待される成果、将来的な展開など、いずれも研究構想を理解するために重要な情報です。
さらに、生成AIが関連する要素を提案するたびに、研究者も「これも入れた方がよい」と感じやすくなります。
問題は、それぞれの情報が不要なことではありません。
必要性のある情報が数多く存在するために、すべてを一枚の中で同じ強さで見せようとすると、研究の核が埋もれてしまうことです。
一方、科研費のポンチ絵では、必要な情報が存在するだけでなく、その情報が審査委員に短時間で正しく理解されるように設計されている必要があります。
私たちは、研究構想そのものは十分に含まれている一方で、図形、線、文字、色などの視覚要素が過密に配置され、研究の核が読み取りにくくなった状態を、分かりやすく「太ったポンチ絵」と呼んでいます。
今回の比較では、非白色領域占有率が、AI生成Figureの平均70.7%から、最終Figureでは31.1%へと変化していました。
これは、制作工程を通じて、画面上で視覚要素が占める領域が、平均約56%縮小していたことを意味します。
もちろん、すべてのAI生成ポンチ絵について、図形や文字を一律に56%削除すればよいわけではありません。
この数値は、今回対象とした6案件における平均値です。
また、ポンチ絵の整理は、単に要素を削除したり、余白を増やしたりすることでもありません。
研究者が必要だと考えてAI生成ポンチ絵に盛り込んだ情報を見直し、研究構想を維持したまま、画面上の視覚的な負荷を大幅に調整する必要があります。
自分で申請用のポンチ絵まで仕上げる場合には、この整理を研究者自身が行わなければなりません。
それは、実際には容易な作業ではありません。どの情報を強く見せるか。どの情報を補助的に扱うか。研究背景、課題、仮説、手法、成果、将来展望を、どのような関係として配置するか。審査委員が、どの順序でポンチ絵を読むか。
研究構想への理解に加え、情報の優先順位、視線の流れ、画面構成、申請書内での掲載条件を同時に検討する必要があります。
いわば、AIによって短時間で形になったポンチ絵に対して、審査委員に伝わる状態へ向けた過酷な「ダイエット」を行うことになります。
ただし、このダイエットで減らすべきなのは、研究構想そのものではありません。整理すべきなのは、画面上に現れている視覚的な負荷です。
研究の核を失わず、むしろ、より明確に伝わる状態へ変えることが目的です。
AI生成ポンチ絵は、研究者の構想や研究内容を短時間で可視化できる、優れたインプットです。
一方で、科研費申請書のポンチ絵として研究の価値を効果的に伝えるためには、研究構想を減らすのではなく、画面上の視覚的な情報密度を適切に整理する工程が必要になります。
今回の比較調査では、同一の研究内容・同一のFigureであっても、申請・投稿・納品に至る制作過程において、視覚要素の占有率や輪郭密度が大きく変化していました。
これは、科研費ポンチ絵の制作が単に「見た目を整える作業」ではなく、研究の価値や構想を、審査委員により短時間で、より正確に理解してもらうための認知構造の再設計であることを示しています。
AI生成ポンチ絵を科研費申請書に使用できる状態へ仕上げるためには、「何を描くか」だけでなく、「どのように理解されるか」という視点から、ポンチ絵全体を見直すことが重要です。
この考え方は、論文FigureやGraphical Abstractにおいても基本的には同じです。
ただし、科研費のポンチ絵では、研究結果だけでなく、背景、着想、計画、成果予測、将来展望までを扱うため、情報過多がより起こりやすいことに注意する必要があります。
本調査が、AI生成ポンチ絵をより効果的に活用するための一助となれば幸いです。
AI生成ポンチ絵を、科研費申請用のポンチ絵へ整える10のチェックポイント
AI生成ポンチ絵を科研費申請書で伝わるポンチ絵へ仕上げる際に確認したいポイントを、GrantVおよびMEDICAL FIG.が実際のFigure制作で用いている整理の考え方をもとにまとめました。
AI生成ポンチ絵を、研究の価値が短時間で伝わるポンチ絵へ整えるための実践ガイドとしてご活用ください。
GrantVでは、研究者自身の理解整理から、審査委員に伝わる構造設計までを支援しています。