前回の記事では、Patient-CentricityやPatient Engagementの広がりとともに、患者にも理解できる形で研究成果を伝える必要性が高まっていることを紹介しました。
その実践手段の一つがPlain Language Summary(PLS)です。
しかし、患者や一般市民に情報を届けるとき、本当にテキストだけで十分なのでしょうか。近年、海外ではPLSをさらに発展させた「Graphical PLS」が広がりつつあります。
今回は、Text PLSからGraphical PLSへの変化と、その背景にある考え方を整理します。
Patient-Centricityの考え方が広がる中で、患者が研究成果を理解し、自らの意思決定に活用できることの重要性が高まっています。
そのための手段として発展してきたのがPLSです。
PLSは、専門的な医学論文や臨床試験の結果を、患者や一般市民にも理解できる言葉で説明するための要約です。
専門用語を避け、平易な表現を用いることで、研究成果へのアクセスを容易にする役割を担っています。
しかし、情報を届けることと、理解してもらうことは必ずしも同じではありません。
研究内容が複雑になるほど、文章だけで伝えることには限界もあります。
たとえば、
などは、文章だけでは理解に時間がかかる場合があります。
また、読者によっては長い文章を読み続けること自体が負担になることもあります。
こうした課題に対する一つのアプローチとして登場したのがGraphical PLSです。
Graphical PLSは、PLSの内容を図解やインフォグラフィックスによって視覚的に表現する取り組みです。
研究の背景、対象者、介入方法、結果、意義などを、文章だけではなく図やアイコンを用いて整理することで、研究全体の流れや重要なポイントを短時間で把握しやすくすることを目的としています。
特に患者向け情報では、
といった内容を視覚的に示すことで、理解の助けになると考えられています。
Graphical PLSは、研究内容を単純化するためのものではありません。
患者や一般市民が研究成果を理解しやすくするために、情報の構造を整理し、見える形にするための取り組みです。
研究コミュニケーションの世界では、Graphical Abstractという形式も広く利用されています。
Graphical Abstractは、主に研究者や医療従事者を対象として、論文の内容を1枚の図にまとめたものです。
一方、Graphical PLSは患者や一般市民を対象としています。
対象読者は異なりますが、
「複雑な情報を視覚的に整理して伝える」
という考え方には共通点があります。
研究成果を伝える手段が、文章だけではなく図解へと広がっていることは、近年の研究コミュニケーションにおける大きな変化の一つと言えるでしょう。
欧米では、患者向け要約の作成において視覚的要素を取り入れる事例が増えています。
特に希少疾患や慢性疾患の領域では、患者や家族が研究結果を理解しやすくするため、図解やイラストを活用した情報提供が行われています。
また、患者団体、製薬企業、研究機関が協力しながらGraphical PLSを作成する事例も見られるようになっています。
こうした取り組みは、単に研究成果を公開するためではなく、患者が内容を理解し、自らの判断に活用できる環境を整えることを目的としています。
一方で、学術出版の世界ではGraphical Abstractの活用も一般化しつつあります。
研究成果を視覚的に伝えることへの関心は年々高まっており、
「研究成果を公開する」
ことから、
「研究成果を理解してもらう」
ことへと重心が移りつつあることがうかがえます。
Graphical PLSは、Patient-Centricityの流れの中で生まれた重要な取り組みです。
しかし、ここで新たな疑問も生まれます。
研究成果を必要としているのは、患者本人だけではありません。
家族や介護者、患者団体、医療従事者、政策担当者、そして一般市民など、多様な立場の人々が研究成果に関心を持っています。
Graphical PLSは、こうした人々に対してどのような役割を果たしているのでしょうか。
次回は、Graphical PLSが誰のために作られているのかを整理しながら、その利用者について考えてみます。