医師が自分で描く?AIに頼む?プロに依頼する? ── 医師が「Figureを自作できるライン」を見極める方法 ──
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学会発表や論文投稿で、
「この図、自分で描くべきか、AIに任せるべきか、それともプロに依頼すべきか」
と迷われる先生はとても多くいらっしゃいます。
今日はその判断のヒントとして、日本医科大学形成外科の 小野真平先生 が公開されている記事をご紹介します。
小野先生の記事は「Keynoteを使ったメディカルイラストレーション(MI)の描き方」として、
「医師が安全に・最低限のレベルで医療イラストを描けるようになる」方法をわかりやすく解説されています。
ご自身が高いイラストレーション技術をお持ちであり、プロの視点からも非常に秀逸な内容です。
メディカルイラストの自作を検討されている医師の皆様は、ぜひご一読ください。
"Step by Step"の写真・イラスト・動画で理解する マイナー外科・救急https://imedica.jp/より
【LifeHack】学会発表や論文で使えるメディカルイラストレーションの描き方
小野 真平(おの しんぺい)先生/日本医科大学 形成外科 准教授 手外科・マイクロサージャリー・再建外科を専門とし、臨床・研究・教育の三領域で幅広く活動。 医用画像工学、3D超音波、VR教育、義指開発など工学的アプローチを取り入れた研究を推進し、患者報告アウトカム(PROs)を重視した診療研究にも取り組んでいる。 美術解剖学や医療イラストレーションにも造詣が深く、「医学 × アート」の融合をテーマにした講演・執筆を行うなど、医療教育の分野でも積極的に発信している。
この記事では、医師が自分で描くかどうかを判断する”最低限のライン”はどこか、に注目します。
そして、この“最低限のライン”が明確になるほど、“ここから先はプロに任せるべき領域” も自然と見えてきます。
MEDICAL FIG.としても、この判断の分岐点は非常に重要だと感じています。
■ 小野先生が伝える「医師自身が描くという価値」
小野先生の記事では、Keynoteを使ったメディカルイラストの作り方が丁寧に紹介されています。
- 写真をトレースして描く基本
- 耳や手などのシンプルな構造の描写
- 図の統一感の出し方
- 著作権への配慮
- 「複雑な画像はプロに依頼もあり」という姿勢
これらは、医師が無理なく図を自作できる範囲を正しく示しており、医療現場での“自作文化”を健全に広げる素晴らしい活動 だと感じます。
医学論文専門Figureデザインサービスを運営するMEDICAL FIG.も、こうした啓蒙はとても重要だと考えています。
■ 医師が“安全に”自作できる領域は、このあたりです
小野先生のチュートリアル内容を踏まえ、医師自身が確実に自作しやすいのは、次のようなケースです。
- 単純な概念図
- 一つの器具や手技の簡単な説明
- 外来説明用の大づかみ模式図
- 単一構造のイラスト(耳・手・骨など)
専門領域によって、描きたい対象は異なると思いますが、
まさに、小野先生が示しているように、
「すぐに描ける/安全に描ける」領域は確実に存在します。
■ その先の領域は、医師の努力だけでは難しい
一方で、MEDICAL FIG.にご相談をいただく案件は、次のような“より高い精度・構成力”を求められます。
- 査読者の指摘に耐える精密解剖図
- 実験手法・画像診断・病理・時系列等を統合した複雑なレビュー図
- Grant獲得用のビジョン提示図(研究構想の冒頭図)
- カバーアート級のアート表現
- 図全体のトンマナ統一、色彩設計、情報の取捨選択
これらは、医師の専門知識に“視覚デザイン”という別軸のスキルが必要になる部分です。
小野先生が「複雑な図はプロに依頼するのも一つ」と書かれているのも、このためだと思われます。
当社のスタッフは、 生物学の学位取得やオランダの ZUYD University や 日本で唯一のメディカルイラスト学部である川崎医療福祉大学医療福祉デザイン学科など、国内外でメディカルイラストレーションを専門に学んだ有資格者で構成されています。
プロが担うべき領域を担当するには、その上で、数百点を超える査読者とのコミュニケーションの経験が必要です。
■ ”安全に”AIに頼む基準はどう考えればいいのか?
生成AI使用の明示的なポリシーを持つジャーナルも増えています。
生成AIをアシスト役(文章生成・校正等)として活用することはほとんどのジャーナルで許可されている一方、ツールとしては許可されるが、「責任主体」にはなれない、という明確な線引きがあります。
現在の著名ジャーナルが生成AI使用においてもっとも危険視しているのは、投稿者によるAI使用の秘匿です。
AI生成使用であることの明示を義務付ければ良いという単純な話でもないわけで、しばらくは模索が続くでしょう。
参考:
論文のFigureを作成する上で、画像生成AIはアシストツールとして活用するなら多くの場合は問題はなく、プロに頼む前に、まずAIにやらせてみてから、という方も多いでしょう。
ところで、同じプロンプトを入れても、同じ画像が再生成されないという経験はありませんか?
個人的には、生成AIのプロンプトが持つ「再現可能性」の低さは、 「学術論文の意義である再現性」と相性が悪いと感じています。
医学論文の文脈での生成AIの使用が、トレーニングデータの「著作権クリアランス」による 無自覚の剽窃物生成リスクや、無自覚の捏造という不正と構造的に同じ問題をはらんでいることは、すでに指摘されている通りです。
そういった意味で、医師が自作できる“最低限のライン”は、医師が生成AIを使って作成する図の条件にそのまま適用できると思います。
要するに、自分で作れる範囲のものを、生成AIに頼んでみるということです。
■ AIの時代だからこそ、“三つの選択肢”に基準が必要です
最近MEDICAL FIG.では、AIに「論文図を描かせてみたが納得いかなかったので相談した」という依頼が増えてきました。
ほとんどが、
- 解剖が破綻する
- 細部が調整できない
- 色が安定しない
- プロンプト再現性が低い
などの理由です。
生成AIは便利なツールですが、自分でできる範囲を大幅に超えた結果を出すため、安定的に運用するのが意外と難しい現状があります。
そこで、“最低限のライン”を判断するために、ひとつ わかりやすい基準 をご提案します。
◆ プロンプトを3回変えても理想に近づかない場合、その図はAIの守備範囲を超えています。
これは実務的にも、利用者目線でも、非常にわかりやすい指標です。
そもそも自作で難しいと判断されたので、生成AIに相談されたのでしょう。
3回プロンプトを更新しても納得できないのは、AIが扱えない領域です。
その時点でプロに相談する価値が十分あります。
■ 「自作・AI・プロ」の境界線(早見表)
|
目的
|
自作
|
AI
|
プロ
|
|
単純な概念の視覚化
|
◎
|
△
|
ー
|
|
手技の簡易説明
|
○
|
△
|
◎
|
|
疾患メカニズムの整理
|
△
|
△
|
◎
|
|
査読対応(精密解剖)
|
×
|
×
|
◎
|
|
Grant図・カバーアート
|
×
|
×
|
◎
|
■ まとめ
今回ご紹介させていただいた小野真平先生の記事は、医師が自分で描ける最低限のラインを丁寧に示す素晴らしい取り組みです。
このラインが明確になることで、
- 「どこまで自作できるか」
- 「どこから先はプロが必要か」
- 「AIがどこまで役立つか」
が自然に線引きできるようになります。
そして、どれが良い・悪いではなく、適切な方法を適切な場面で選ぶことが一番大切です。
“もう一段上の表現が必要だ” と感じられたときは、どうぞお気軽にMEDICAL FIG.へご相談ください。
研究の価値を正しく・魅力的に伝えるお手伝いをいたします。


